55回〈暮らしの中の看取り〉準備講座 

=「聴く力」を養う!第12弾=

本当に「傾聴」できてるの? 
2023.2.26 13:3015:30 受講レポート

 

今回の準備講座は、昨年11月にご講義いただいた緩和ケア医で現役がん患者でもある、大橋 洋平先生に再びお時間をいただき、「傾聴」について学ぶ機会をいただきました。

その後は、3~4人のグループになり、ご講演いただいたことについての感想や、日ごろの自分自身の相手に対する振り返りなどを行いました。

 

=大橋先生のご講演=

  • 「引き算から足し算命へ」

最初に、村田久行先生の「対人援助論」を用いて苦しみの構造について教えていただきました。苦しみは、客観的な状況と主観的な想いや願い、価値観とのズレから生じるものであるとのこと。

例えば、何かの講演を聴講している際、客観的に「つまらない話」だった場合、主観的に「楽しい話が聞きたい」という想いがあると、そこにズレを生じるから、講演を聴講していることが苦しくなる。また客観的な状況を主観的な想いなどに近づけていくには、変わっていくことを支える術が傾聴である。

先生のご体験から、がんを患い完治しなければ、治療をしても意味がない、他の手を借り手まで生きる意味がない(スピリチュアルペイン)、この意味がないと苦しむ時、誰かに想いを聴いてもらうことで、わかってもらえたと実感した場合に「共感」ができるという満足・安心・信頼が生まれて少し自分が楽になったとのこと。

少し楽になると、物事を考えられるようになり、新しい生き方を探す(小さくても)ようになり、生きる意味が回復していく、それが「生きがい」に変わる。このお話を聞いて、共感は自分ではなく、相手が「わかってもらえた」ことを感じ、満足・安心してもらうことで初めて「共感」するのだということを、改めて理解することができました。相手の立場になって初めてわかる苦しみについて、家族や自分が病気になったり、つらい出来事が起こったりすることは私たちにも起こり得ることです。そのような時に共感してもらうことができる誰かがいることは、気持ちが落ち着くだけでなく、考えが前向きになり生きがいを見つけることにもつながるという大きな力になるとわかりました。

 

  • 「傾聴とは」

傾聴と聴くことは同じ「聴く」ということになりますが、傾聴は何を、なぜ、どのように聴くかをコミュニケーション技術として行うことに違いがある。

まず、何を聴くかについては、相手の苦しみや気がかりを、なぜ聴くかについては、「わかってもらえた」と相手が感じるように、その後相手の気持ちの整理ができ、考えが整うことで、生きる力が湧くようになることをサポートしていくというものでした。

そして、どのように聴くかについては、反復してちょっと待つことが大切である。

傾聴の流れは、①相手のサインをメッセージとして受け取る、②メッセージを言語化する、①②の最後のフレーズをそのまま返してみることは、話の終わる時に意味があることが多いので相手が聴いてもらうことができていると感じやすい。

次に③言語化したメッセージを繰り返し(反復の技術)ちょっと待つ、④相手の想いを明確にする(問いかけ)をする。日ごろ、誰かに何か言われると、医療者であれば「何とかしなくちゃ」と相手の言葉に意味合いをつけて返答することがしばしばありますが、「言っていることと違う」「医療者は私をわかってくれていない」と感じることもある、というお話もされました。

またこの傾聴のスキルは医療者と患者間だけでなく、普段の対人関係で手の「聴いてもらうことができた」という満足や信頼関係を築くことにも役立つとのこと。

 

  • 「聴くことは語ること」

患者は苦しい、苦しくなく生きたいと想うことが多いけれども、自分の生き方を自分が決めることも大切である。

例えば治療を受け、自立した活動ができるようになっても、周囲の人への依存や他律では、自分の満足は得られないこと、自らが決める「自律」をすることが大切。

その自律を支えるために必要なことが傾聴。話を聴いてもらえることで自分をわかってもらうには「語る」ことにつながる、そうして自らの役割を認識し、応援を受けながら(少しずつ)新しい考えを生み、生きる力を湧かせていくことができると教えていただきました。

 

  • 大橋先生の情報発信はこちらで受け取れます

現在、大橋先生はSNSを活用し、「足し算行脚」「足し算命」をテーマとして、私たちに大切なメッセージを精力的に発信してくださっています。

・Facebook 大橋洋平

・YouTube 足し算命・大橋洋平の間 がんで奪われたモノ、手放したモノ

・Twitter @ichigo_futae

・Instagram ichigo.futae

・書籍 緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡 大橋洋平 双葉社 2022.11出版

 

=グループワーク=

実際にご自身も大橋先生と同じがんを患われた方がおられ、その方は「先生(医師)から見えないものが訴えたいのになかなか伝わらない」というお話をされました。

数時間待ちの3分診療といわれる診療現場では、患者さんとの時間を取りたいと思いながらも業務が優先されていることに葛藤を抱いている医療者が少なくありません。そのような時はどうすればよいかとの問いに、大橋先生は「ここぞというときに聴くための時間を確保する」「待ってもらう時は予定を具体的に伝える」と工夫している。

また、信頼関係を築くことがむずかしい時の対応については、大橋先生から「自分の傾聴技術を振り返る、技術を向上させる」ということと、怒りは苦しみの現れであることもある。一度離れてもう一度向きあう、どうしても対応がむずかしい場合は、他の人と交替をすることも1つであるとアドバイスをいただきました。

人は別のことに意識を向けると、先ほどのつらい状況に向き合っていた自分を切り替えることができるとも。

またくみサポ代表の大井先生からは、相手の言葉の裏にある気持ちを考える、相手との折り合いのつくことを探すことも重要。そして、対応した自分自身が苦しんだ時には、つらい気持ちを分かち合う仲間がいることが大切であると語られました。

 

今回の講座では、人はなぜ苦しむのかという根本的な理由から、苦しみを楽にする傾聴スキルの方法まで、例を挙げていただきながらわかりやすいお話を聞きながら学ぶことができました。大橋先生の親しみやすいお話や、参加者の方々とのグループワークの中での体験談や取り組んでおられることなどをお聞きし、自分の聴く姿勢を振り返ることができました。相手の方の「聴いてほしい」と思う気持ちを見誤らず、「ここぞ」というときに真摯にお話を聴く機会を持つことを実践してみようと思います。

一人ではなく、仲間を作り、ともに支えあいながら、それぞれの生きがいを楽しむことのできる地域づくり、まちづくりを行っていきたいと改めて気持ちを高めることができることができる機会を得ることができた時間でした。

今回の学びを少しずつでも行っていき、傾聴する力を高めていきたいと思います。大橋先生、くみサポメンバーの皆様、貴重な学びの場をいただきありがとうございました。

 

最後に、参加者のみなさんからいただいた、本日のお話しを聞いて共有したいと思った内容やアンケートに記載していただいたコメントをご紹介して、活動報告とさせていただきます。

・怒りは苦しみの表れであることもあるので、裏に潜んでいる感情に目を向け考えることも大切だというお話は参考になります。

・患者の立場から:医師は、「検査値」「データ」をお話しされるだけ、「気持ちの問題ですよ」と言われることもある。分かってもらえないなと感じることもある。まあ、私は、沢山の患者さんの一人に過ぎないからな、と思っている、ということ。

・医師の立場から:傾聴するのに時間を要することがある。時間確保、時間管理は必要。例えば「今日の●●さんの手術は何時間かかる」、というのと同じように、傾聴の場合も「今日はこの方のお話を聴く!」としっかり決めて、スケジュールをたてて、午後を空けておく、その方のお話の後の予定を入れないなどの工夫をする。 時間が無いときは必ず次回の約束をする、ということ。

・傾聴の意義、2つのタイプのコミュニケーション(情報収集vs.援助的コミュニケーション)のお話はとても興味深かったです。特に効率が求められる現代社会では後者は置き去りにされがちです。大橋先生、患者と医師両方の立場から貴重なお話ありがとうございました。

・傾聴は技術、意識して磨いていかないといけない、ということ。

・大橋先生から、医療従事者と患者、市民に向けたメッセージをお聞きすることができ、自分の中にあった考えも整理されました。

・大橋先生の話は臨床で役立つ話でした。患者さん、家族が、分かっってくれたと思うような関わり、傾聴をし、生きる希望に繋がる援助を心がけ寄り添って伴走して行きます。