第54回〈暮らしの中の看取り〉準備講座

=「聴く力」を養う!第11弾=

がんを生きる〜緩和ケア医としての日々の所感〜 レポート

 

 

今回の準備講座は、今年7月に開催された日本緩和医療学会の会場で、

くみサポのメンバーが活動について発表した際に大橋先生から

お声をかけていただいた縁で実現しました。

現在も治療継続中の現役がん患者であり現役緩和ケア医でもある大橋先生から、

「足し算命で気い楽にがんを生きる」と題して講演をしていただきました。

その後は、ブレイクアウトルームに分かれてグループワークを行い、

感想などを共有しました。

 

大橋先生のお話しは、以下のようなものでした。

 

最初に、4年前の発病から今日までを振り返りながら、一つ一つの治療や検査の結果が、こんなにも辛く感じたり、こんなにもありがたいと感じたりするものか、と実感したというお話をされました。

緩和ケア医として多くのがん患者さんに接してきた大橋先生でさえ自分の病状によって一喜一憂したと知り、驚きもありましたが、どんな人でも冷静でいられなくなるものなのだと改めて感じることができました。

当初は余命がどれだけだったとしても一日ずつ減っていくという捉え方しかできなかったところから、1日ずつ足していこうと考え方を切り替えてから気が楽になったという、発想の転換に驚きました。この「足し算命」は、転移が発覚した日を0日目として、1316日生きてきた、という考え方。1316日生きることで今日あなたに出会えたという喜びを感じ、また再会したいと思いながら1日ずつ足していく。自分が何かの病気を患い落ち込んだとき、きっと支えになる素敵な考え方だと思いました。

 

次に、緩和ケアについてのお話。

医師として患者の気持ちは想像できていたつもりだったが、患者になってみて分かっていなかったと実感している、という言葉は、現役の医師であり現役のがん患者である大橋先生にしか語れない重みのある言葉でした。

特に、身体的な痛みは理解してもらいやすいが、精神的な苦痛は患者から訴えなければ医療者は分からない。医療者は、患者に苦痛を訴えてもらえるような医療者にならないといけない。そのためには、問題解決を目指した情報を収集し伝えるためのコミュニケーションだけでなく、「話を聞いてもらってありがとう」と言われるような援助的コミュニケーションが必要。

患者さんは、頼れると思える相手がいれば、「自立」が損なわれて出来ないことが増えていっても、「自律」つまり何を誰に頼るかを自己決定することができれば、患者さんの気持ちは救われる。

これは、緩和ケアに限らず、老衰や脳卒中、認知症などで介護が必要になったときにも通じる、大切な視点だと思いました。

 

大橋先生は、がん治療を継続しながら、医師としての仕事だけでなく、YouTubeチャンネル「足し算命・大橋洋平の間」、共同通信b.「足し算命」、著書「緩和ケア医 がんを生きる 31の軌跡」、Facebook「大橋洋平」、全国ツアー「[足し算命]行脚」と、軽やかに精力的に活動しておられます。いつも準備講座に参加してくださっている参加者の中にも大橋先生のファンがおられ、直接対話できてとても楽しそうな表情が印象的でした。

重たい空気になりそうな大切な内容も、ユーモアを混じえて分かりやすく受け止めやすくお話ししていただきました。内容からだけでなく、そんな大橋先生のお姿からも、力をもらえる会だったと思います。

 

最後に、参加者のみなさまからいただいた感想を一部ご紹介します。

 

・先生のお話の中で、家族は第二の患者である。苦しんでいる患者である家族や友人を目の前に何もできないことに苦しみを感じていることに言及されましたが、支援者である医療従事者、家族、友人の共通の思いである事を多くの人々が認識すると、自分だけではない、みんなそうなんだと苦しみは無くならなくても、救われる部分があるかと感じました。

・「足し算命」という言葉と概念を産み出して下さったこと、それを知ることができたこと、本当にありがたく思いました。将来、もしかしたら明日にでも、大きな病気を患ったとき、きっと支えとなる概念になると確信しています。 今日は本当に、ありがとうございました。

・今回のご講義で自分の中で特に重要だと感じたことは、患者さんにどんな声をかけたらいいのかではなく、患者さんにまずは「話をしてもらう」、「患者さんは、苦しい。苦しいことを、訴えてもらう」こと、というお話です。本当にその通りだと思います。くみサポ様が、これまでの「聞く力」ご講義の中で何度もご教示下さった大切なことです。 医療者側だと、こちらからしゃべり過ぎになりがちです。そうではなく、その「逆」だ=患者さんの方に話して頂くのだ(もちろん話をしたくない方にはそれを尊重しつつですが)、ということを、とても忘れがちなので、だからこそ肝に銘じたいと思いました。 あとは、「一期二会」、とてもいい言葉だと思いました。私もそんなふうにしていきたいなと思いました。

・身内に病人が出ると身近な家族ほど辛く感じる。少し離れた身内や医療従事者に話をした方が冷静に話を聞いてもらえるかも。

・大橋先生だからこその説得力のある言葉でした。グループワークで深みが増しました。

・自立と自律の話。本人も支援者も「自立と自律」を共に理解していること大事だなぁ〜と改めて思った。

・初めて参加させて頂きましたが、先生の症状にとても驚きました。 《気持ちが楽になる》……今更ですが子育て中や、親の介護中に私が気に留めておく大切な気持ちでした。 先生のお話しと、和やかな雰囲気に、とても気持ちが楽になりました。有難うございました。

・緩和ケア医が患者となった経験をお話頂いたことは、サバイバーとして共感することが多々ありました。家族との関係、医者との関係など

・傾聴のあり方や、その他たくさんの共有したい学びをいただきましたが、なかでも大橋先生のお姿から生きる力をいただきましたことに感謝致します。