2019年5月4日、国際大学都市日本館で、在仏日本人会のご厚意により〈暮らしの中の看取り〉準備講座@Paris を開催しました。

フランスに到着してすぐに老人ホームを見学させていただき、そこでの会話から、やはり高齢者をどう支えていくのかということが日本と同様に課題であることがわかり、人生の最終段階に向かう人をどう支えていくのかという話題を中心にお話しすることになりました。

家族を看取った経験がある方も、まだまだ高齢のご両親がお元気な方も、まずは自分ごととして考えてみました。
何かひとつの正解を探すのではなく、人生の最期に大切にしたいことがさまざまであることや、その多様性を肯定する、受け入れることの難しさも改めて感じられたのではないでしょうか。

さて、今回聴講して下さった方のお一人、在仏日本人をサポートする マロニエの会 を主催されている方が、広報誌 かわら版に掲載するため、今回の講演の記録と感想をまとめてくださいました。

その内容をこちらでシェアする許可を頂きましたのでご紹介させていただきます。

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在仏日本人会 講演会 「共に生きるために役立つ緩和ケアの考え方」
講師:ホスピス医 大井裕子(おおいゆうこ)氏 

 5月4日、春とも思えない寒い日に、はつかいち暮らしと看取りのサポーター代表・桜町病院の大井裕子医師による緩和ケアについての講演会が催されました。 ホスピス医として生と死を見つめ続けた先生の講演は死と向き合うことは如何 に生きるかを考えること、そして自分の置かれた状況の中で何ができるのかというテーマを中心に、誰でも必ず人生のある時期に直面する問題を扱ったものでした。 

 大井先生はホスピスで末期患者の治療に当たる傍ら「暮らしの中の看取り」準備講座を各地で開催し、医学部や歯学部の学生に看取りをテーマとした講義をなさると共に、在宅医療にも従事されています。

 末期患者のケアに当たって、大井先生のモデルとなっているのは看護師から医療ソーシャル・ワーカーになり、そして39歳で医師となったイギリスのシシリー・ソンダースです。 シシリー・ソンダースは末期がん患者のケアをしながら、死にゆく人がどうやったら安らぎを感じるか、今の医療に欠けていることは何かを患者と話し合う中で、精神面、感情面、社会面などの側面においても患者の望むケアーができれば死を安らぎをもって迎えられる事、いや幸福感をもって迎える事すら可能になるかもしれないという考えを持つに至り、1967年にセント・クリストファー・ホスピスを設立しました。 これは疼痛コントロールや緩和ケアの実践だけでなく、研究・教育や在宅ケアの機能も兼ね備えた近代ホスピスの先駆けとなりました。

 緩和ケアは本人だけではなく家族のケアも大切にしています。 患者にとって医療は生活の中のほんの一部で、患者と家族がどう過ごしたいのか一緒に考えることが必要です。 シシリー・ソンダースは「人がいかに死ぬかという事は、残される家族の記憶の中に留まり続ける。 最後の数時間に起こったことが、残される家族の心の癒しにも悲嘆の回復の妨げにもなる。」と言っています。

 シシリー・ソンダースは患者との対話を通して、彼らのニーズは一様ではないものの、その多様性の中にある一定のパターンがあることに気づきました。 それが彼らの苦痛には4つの要素があるということで、そのすべてに目を向ける必要があると訴えました。

 大井先生がシシリーソンダースの教えをもとにホスピスで多くの終末期の患者や家族と関わり学んだことは、
・どんなに苦しい状況にある人もサポートしてくれる人がいれば、希望を見出すことができること。
・サポートしてくれる人とは、死の話題から逃げず、そばに座ってじっくり話を聴いてくれる人。
・そのためには、死へのプロセスを知り、死生観を持ち、聴く力を持っていることが望ましい。
・聴く力とは、自分とは異なる価値観を持つ相手の話を肯定的に聴くこと。   でした。

 人生の最終段階には誰もが身体機能が低下して歩けなくなり、食べられなくなります。 がんでも老衰でも同じです。 ただ、がんと老衰では変化の速さが全く異なります。 このことを知っていないとがんでは変化の速さについていけず、すべてが後手後手になってしまいます。 これまで歩いて生活していた人が外出が難しくなり、トイレに歩くことも難しくなったとき、どんな苦しみを本人が感じ、それに対して周りにはどんなことが求められるでしょうか。 多くの人が感じる全身倦怠感も誰かが身体をさすってくれると穏やかに過ごせることもよくあります。体調がどんどん悪化していく中で自分は何もできないと思って見ている家族は多いですが、まだ食事を楽しめる貴重な時間に好物を用意する、一日中眠っている様な状態になる前に一緒にいる時間を取れるようにする、水を飲むのが難しくなってきたら口の渇きを癒すケアをする、身体がだるくてつらくなってきていたらマッサージをすると楽になる、というようなやり方で患者のケアに参加できると、家族にとってそれは喜びでもあり、その後に生きて行く支えにもなります。
この様に私達には人が亡くなる瞬間までできることがあります。 

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 以上は〈暮らしの中の看取り〉準備講座に基づいた講演の要約です。 

〈暮らしの中の看取り〉準備講座は、受講者が看取りのプロセスを知り、自分にできることを見つけることを目標にしていますが、実際、受講者が、「まずは看取りを自分事として考え」そして「食べる事」や「聴くこと」をサポートできるよう学んだ結果、家族ががんになった時に、納得の行く介護と看取りが出来た、家族の話をじっくり聴いて希望を医師に伝え、医師の説明をかみ砕いて家族に説明し、そして家族が食べられなくなった時に家族をサポートできた、という話がとても印象に残りました。 

 上記の説明は看取りの専門家に向けたものですが、その中には家族や友人を看取る私達にもできることが沢山あります。治療ができなくなったがん患者の入院継続が難しく、そして認知症だからといって入院できない現状に鑑みて、又ホスピスでの看取りは在宅に応用できるということから、がんと認知症への対応を知る事で私達でも様々な状況への準備ができるということをこの講演で学びました。

 中でも「患者が亡くなる瞬間まで私達にできることがあります」という言葉が心に響きました。    Midori S.

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最後になりましたが、フランスではたくさんの素敵な日本人の方とお会いすることができました。皆さんの今後のご活躍をお祈りいたします。感謝をこめて。